代表世話人挨拶【第18回 循環器Physical Examination講習会】

みなさま、第18回循環器physical examination講習会へようこそ
この講習会は循環器領域を中心にphysical examination身体所見を学ぶ会です。2003年に発足し今回で第18回を迎えます。今年の話題は何といってもコロナウィルスです。その影響で今回はWeb開催となりました。Web開催ではありますが、画質、音質とも期待していただいていいと思っております。

コロナで社会のあらゆることが影響を受け変化しています。医療分野はその最たるものの一つです。消毒、マスクはもちろん受診を控え、不必要な接触は控え問診もアクリル板越しになりました。診察などもっての他という雰囲気です。これと全く正反対なのがphysical examinationです。視診,触診,聴診を駆使して病態を考えながら診断をつけていく,そして治療方針を決めていく。Physical examinationの醍醐味です。一方、エコー,CTと血液所見から診断はできる,ガイドラインに照らし合わせれば重症度も治療方針も決まる、というスタイルもあります。コロナ禍の現在はそれが圧倒的に多いでしょう。コロナが収束しても近い将来AIが席捲して問診はタブレットに入力,医師は診察せず画像診断と採血だけですが診断が下り,治療方針も決めてくれるという時代がくるかもしれません。

ではphysical examinationは不要となるのでしょうか?私の答えは『否』です。Physical examinationがなくても何とかなるかもしれませんが,あれば百人力,強い味方となります。Physical examinationは幸か不幸か客観化しにくくAI化しにくいでしょう。ですからより一層貴重となります。画像診断でも血液検査でもないphysical examinationからしか得られない情報に価値が出てきます。たとえば,中心静脈圧は心不全患者の血行動態を把握するのに不可欠ですがphysical examinationを駆使すればその場でわかります。心エコーよりも正確にスワンガンツカテーテルよりも簡便にわかります。大動脈弁狭窄は聴診をすればわかります。重症度も手術適応もわかります。心エコーで初めて発見される大動脈弁狭窄症例は聴診をしていないか,よほどのlow flow low gradient ASです。

有用なphysical examinationですが,所見をとるためには『修行』『訓練』が必要です。当たり前です。ベテランのとった所見と研修医とった所見が同等なわけがありません。われわれ医師,医療従事者はプロです。技を磨いて素人にはできない仕事をするのです。
今回はWeb配信となりますが、プロの技をしっかり学んで明日からの臨床に活かしていただければこれに勝る幸いはありません。

令和2年12月
室生 卓