みなさん、『聴診のススメ』へようこそ。本会はもともと10年前に聴診をはじめとする循環器領域の身体所見の基本を学ぶ場としてはじめられたもので、今回第11回目を迎えます。これまでは毎年2月に開催しておりましたが、今回は6月開催となりました。それは発足以来本会の代表世話人を務めてこられた吉川純一先生の逝去により会期がずれたためです。吉川純一先生は心エコー図の分野で世界的な存在でしたが、実は大変臨床に強く、またphysical examinationへの造詣が深く教え上手でした。残された我々は吉川先生の思いを心にphysical examinationの普及に精進したいと思います。
今医療の現場ではありとあらゆる情報が手に入ります。心不全を例に挙げるならば左室駆出率、左室容積、左房容積は言うに及ばず拡張能指標やストレイン値、もちろんBNPも簡単にわかります。しかしCTやエコー、MRI、血液から得られるこれらの情報が万能かといえばそうではありません。いつでも即座に手に入るというわけにはいきませんし、他の検査所見と矛盾しているからといって簡単にやり直しがきくものでもありません。一方でphysical examinationにはいろいろな限界がありますが、bedsideでいつでも情報が得られ、他の検査と間に矛盾があれば何度でも所見を取り直すこともできます。トレーニングを積めばおのずから診断精度が上がりますし限界や適応もつかめてきます。自分の手と目と耳で直に得られるphysical examinationに『確かな手応え』を感じることができるようになります。そして何より、bedsideへ行くのが楽しみになります。
本会が皆様にとってphysical examinationを習得し臨床の現場で活用できる機会となることを切望いたします。
2017年5月
室生 卓